役員からの人格否定、続いた性暴力

性被害

会社役員の男性からの継続的な性被害を認定した上で慰謝料400万円の支払いを命じた判決が2022年2月19日、東京高裁で言い渡されました。期間が長く悪質であることから、セクハラ事件としては高額の慰謝料が認められました。
 当事者が性暴力被害にあったと認識するまでには、時に数年もの時間がかかることもあります。訴訟を起こした女性(当時30代)は、提訴の準備をする中で次第に自分の身に起きたことを理解していったといいます。

 「当初は『性被害』という認識が全くなかった。当事者は渦中で苦しく、混乱していて被害かどうか判断できない状況にある。周りが声をかけてくれるのが一番ではないでしょうか」

「自分の所有物」扱いし、人格否定も

人格否定

持病があり就職活動がうまくいかず生活に困っていた2014年6月、会社役員の男性Aから「事務員として働かないか」と誘われました。

「俺といればいいことあるよ」
「一生面倒見る」

Aは自分を頼りにするよう話す一方、凶暴な面もたくさん見せました。
2014年8月にあった会社の飲み会で男性から強い酒を飲まされ、意識を失っている間に自宅に連れて行かれ、性的暴行を受けました。2015年ごろからは、Aは周囲に対し女性と性的関係があることをほのめかしながら、女性を「性の世話もしてくれる従業員」といった扱いをし、自己の所有物かのように身勝手にふるまうようになっていきました。

「大した顔してないし、他の仕事に就職できるわけないだろ」
「底辺なんだよ」

あらゆる人格否定を受け、自分は価値のない人間だと思うようになっていきました。最初のレイプ後からは「自分は汚い存在」であり、「やられて仕方ない」「押さえつけられた自分が悪いんだ」という思考に陥りました。
 朝方までスナックなどに付き合わされて酒を強要され、何も考えられないような状態で車に乗せられる。玄関そばで倒れ込むと、ほとんど意識のない状態で襲われる。こうした生活が2年半ほど続きました。
 女性は2016年9月に代表取締役に手紙で被害を訴えたが、状況は変わりませんでした。それどころか、Aは会社の保有する個人情報を私的に使って、自宅を訪ねてきたといいます。「逃げられない」という絶望的な気持ちになりました。
 「こんな日々が毎日続いたら、持病がなくても体調が悪くなる」。スナックに来るよう強要するAに対しそう訴えると、Aは「とりあえず辞表を書こっか」と激昂し、車内で女性の首をつかみ揺さぶりました。家に帰ると恐怖が沸き起こり、外に出られなくなりました。

高裁判決「救いだった」

高裁判決

誰かに助けを求める一心で、労働組合のページにたどり着き、そこから代理人を務める弁護士に繋がりました。2017年春のことでした。

「次の被害者を出したくない」

Aと会社を相手に訴訟を起こすことに決めたが、その準備は大きな負担でした。集めた証拠を見ることでパニックを起こしてしまう。審理が進む中で、被告側から「付き合っていた」など根も葉もない主張をされ、しばらく寝込むこともありました。

 そうして迎えた2021年4月14日の1審判決。裁判所はAと女性について「交際関係にあった」と判断し、ほとんどの訴えを却下しました。あたかも自発的に性的行為に応じていたかのような判決文の書き振りに愕然としました。

「会社でのセクハラ被害に悩む女性が多い中、上司であれば部下に対して何でもしていい、と裁判官が容認したようなものでした。途中から全て男女交際であったと片付けられ、司法は被告に対して賠償させずに終わらせてしまうんだとショックでした」

控訴審では3人の裁判官からなる合議体となり、裁判官からは「慎重に検討して結論を出したい」と言われました。代理人が「いい判決が出るかもしれない」と予想した通り、慰謝料は一審の30万円から400万円に大幅に増額。会社の使用者責任も認められました。

2017年10月の提訴から4年超。その間に、#MeToo運動や「フラワーデモ」など性暴力に抗議するムーブメントが起きました。女性は「こうした運動があったからこその高裁判決だと思う」と振り返ります。

「高裁で裁判官が言ってくれたことは救いでした。弁護士の先生方は『稀に見る判決』と言っていて、今後性暴力に関する判断が変わってくるのではないかという希望も持てました。訴訟をやってよかったなと思っています」

被告側は高裁判決を不服として、上告しています。

  

●被害者は、「自分が悪い」との思考に陥りがち。周りからのサポートが必要な場合も。
●少しでも、自分が嫌だと感じることがあれば、周りや公的機関への相談を。

  

弁護士をミカタに