家賃が安いと思ったら…「事故物件」 告知義務があるケース? ないケース?

民事事件

過去にどんな人が住んでいた家なのか気になることもあるでしょう。もし、そこで人が亡くなっていたとしたら―。国土交通省は昨年10月、入居者らが死亡した住宅を取引する際の告知指針を公表しました。過去に殺人や自殺などが起きたいわゆる「事故物件」のガイドラインを国が示すのは初めてです。

「事故物件」という言葉をよく聞きます。そもそもどのような定義なのでしょうか。

実は明確な定義はない「心理的瑕疵」

訳アリ物件

事故物件は法律用語ではなく、明確な定義もありません。一般的には、過去に他殺や自殺などで住人が亡くなった経歴がある物件を指します。ただし、住人が亡くなったといっても、他殺や自殺、病死、老衰といった死因や、それが最近だったのか数十年も前のものだったのかという時期などさまざまです。

 法律用語としては、雨漏りがあるなどの「物理的瑕疵(かし)」と区別して、客観的に相応の嫌悪感を抱く事情を「心理的瑕疵」と呼んでいます。その中の代表的なものが、老衰や病死などの自然死以外の事情で人が亡くなっている場合です。

 マンションやアパートなどの部屋を借りる場合や家を買う場合に事故物件かどうかを告知してもらえる法律上の定めはあるのでしょうか。

自殺なら原則3年間の告知義務

告知

取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる事情は、法律上告知義務があります。裁判所は事故物件の場合、取引や物件利用の目的、事案の内容、事案発生からの時間の経過、近隣住民の周知の程度などを踏まえて告知義務の有無を判断しています。例えば、居室内の自殺については、事案の発生後3年間は告知義務があるとするのが東京地裁を中心とする裁判例の傾向です。

この告知義務の判断は、ケースバイケースで一概には言えません。そのため、法律の条文を見ても基準は明記されていません。

「人の死」の扱い 仲介業者にも負担

仲介業者

告知義務のなかでも、特に人の死に関する事情の評価は事案ごとに異なります。一言で「人の死」と言っても、自宅で家族に見守られながら最期を迎えたなど、明らかに告知不要のケースもあります。どんなケースで、どこまで告知すべきか、仲介業者にとっては悩ましい問題です。人の死に関する事案の全てを告げなければならないと誤解するあまり、その対応の負担が過大であるという指摘もありました。仲介業者が将来の告知義務を嫌って、特に身寄りが乏しい単身高齢者が賃貸住宅への入居を敬遠するという懸念も指摘されていました。

 こうした背景があり、国交省が検討会を設け、過去の裁判例の蓄積も踏まえて可能な範囲で、現時点で妥当と考えられる基準をガイドラインとして取りまとめました

どのような内容でしょうか。
次の項目で見てみましょう。

「隣家で発生」「自然死」「3年以降」は対象外

要点を3つご紹介します。

ポイント

①告知すべき事案かどうか

老衰や病死などの自然死は、原則として告知不要です。統計でも自宅における死因の9割が自然死であり、そのような死は当然想定されるからです。私も尋ねられることがありますが、事件性のない事案で、腐敗による汚れや臭いといった損傷もなければ「告知義務はありません」と助言しています。一方で、自然死であっても腐敗が進み原状回復のための特殊清掃が必要になった事案や、自殺や殺人などの自然死以外の死については告知義務があります。

②賃貸における告知期間

いつまで告知すべきかは、事案の内容や、どこまで知られているのかという周知性、社会に与えた影響などによりケースバイケースです。ガイドラインでは、先ほど述べた東京地裁の裁判例の傾向を基に、一般的な事案を前提に、死亡した時点、または特殊清掃を行ってから3年間を経過した後は告知不要とされています。ただし、事件性、周知性、社会に与えた影響などが特に高い事案はこの限りではありません。

③隣接住戸などでの死は影響しない

集合住宅の一室の賃貸について、隣接住戸での死や、通常使用しない共用部分での死には告知義務はないとされました。ただし、これも事件性、周知性、社会に与えた影響などが特に高い事案はこの限りではありません。

ガイドラインは法律ではないので、それ自体に法的拘束力はありません。ただし、宅地建物取引業者の対応を巡ってトラブルとなった場合、行政における監督の参考にされます。また、これまでの裁判例を踏まえて作成されたものであるため、トラブルの未然防止が期待されます。

 ――不動産業者や家主は、告知に関しどれぐらいの義務を負っているのでしょう。過去の事案を確実に調べるには労力がかかる場合も想像できます。

「分からない」と回答することも

わからない

 告知義務の前提として、仲介業者にどこまでの調査が求められるかという調査義務の問題があります。ガイドラインでは、仲介業者が売り主や貸主に対して、物件状況等報告書などの書面に、過去に生じた事案についての記載を求めることを推奨しており、それをもって通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとされています。人の死に関する事案が生じたことを疑わせる特段の事情がないのであれば、自発的に調査する義務までは負いません。

 そして、調べたけれども分からない、確認が取れないという場合には、その旨の回答をすることで足りるとされています。近隣のうわさやインターネットの情報などは確認が難しいことに留意すべきだとの指摘もあります。

売り主・貸主は、人の死に関する事案について、その存在を故意に告知しなかった場合などには、それが買い主・借り主の判断に重要な影響を及ぼすものであれば、告知義務違反として、民事上の責任を問われる場合があります。

――不動産業者や家主が告知しなかったときには、借り手は不利益を訴えることができるのか。

 説明義務違反に基づく責任追及はあり得ます。

――インターネット上には、事故物件に関する情報をまとめたサイトもあります。買い主・借り主はサイトから情報を得ることもあります。得た情報をどのように利用すればいいのか。また、トラブルを回避するために借り主が気をつけるべき点は?

 借り主が情報を調べるのは自由です。ネットの情報が正しいかどうかは分からないので、気になることがあれば、仲介業者に聞いてみるということだと思います。尋ねられた仲介業者は、あらためて貸主に聞いてみるなど可能な範囲の調査を尽くすことになります。疑問点があれば問い合わせ、回答を踏まえてよく検討した上で契約することが望ましいです。

  

●「事故物件」に明確な定義はない
●告知すべき事案は、ケースバイケースである
●買い主・借り主は、疑問点がある場合は問合せ、よく検討した上で契約することが望ましい

  

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